LCS−20 Cincinnati
(インディペンデンス級沿海域戦闘艦)


 インディペンデンス級沿海域戦闘艦は、アメリカ海軍の沿海域戦闘艦(LCS)の艦級。 Cincinnatiは10番艦である。 アメリカ海軍の関連団体であるアメリカ海軍協会(USNI)では哨戒艦、ジェーン海軍年鑑ではフリゲートとして種別している。

 沿海域戦闘艦のコンセプトは、1998年、当時海軍大学校の校長であったアーサー・セブロウスキー提督が提唱したストリート・ファイター・コンセプトに由来する。  これは、同提督が提唱し、アメリカ海軍の新たな指導原理として採用されたネットワーク中心戦の概念に基づき、アメリカ海軍が採るべき方針について洞察するなかで見出されたもので、従来のハイ-ロー-ミックスの概念に起源を有しつつも、これを根本から覆している極めて大胆なコンセプトであった。  スプルーアンス級駆逐艦とオリバー・ハザード・ペリー級ミサイルフリゲートに見られるような従来のハイ-ロー-ミックス・コンセプトにおいては、高戦闘力・高コストのユニットが前線に配置され、低戦闘力・低コストのユニットは後方など脅威レベルの低い区域に配置される。  これに対し、ストリート・ファイター・コンセプトで建造される艦は、低コストではあるが、NCWを活用して強力な戦闘力の発揮を導き、かつ、その名のとおりに沿海域の前線で攻撃的に活用されるのである。

 当時、アメリカ海軍は既に、新世代の水上戦闘艦のあるべき姿としてSC-21コンセプトを採択し、これに基づいて巡洋艦級のCG-21、駆逐艦級の DD-21の整備計画を策定中であったが、SC-21計画は2001年に突如中止され、ストリート・ファイター・コンセプトを導入しての再計画が行なわれた。  これは、従来のSC-21計画には、多様化する任務に単一の設計で対処するには限界があることや、少数の高価格・高性能な艦に頼り、これを不用意に前線に展開することは極めて危険であることなど重大な問題が内包されていることが判明したことによるものである。

 また冷戦終結後より、アメリカ軍は戦争以外の軍事作戦(MOOTW)のニーズ増大に直面していた。 麻薬戦争では、密輸阻止を目的とした海上治安活動が行われていたが、沿岸警備隊だけでは戦力が不足しており、アメリカ海軍も支援にあたっていた。  海軍は、主としてオリバー・ハザード・ペリー級、スプルーアンス級、アーレイ・バーク級を充当していたが、スプルーアンス級およびアーレイ・バーク級では重厚長大に過ぎ、一方で小型のオリバー・ハザード・ペリー級では、密輸業者が使用する高速船を追蹤するには速力不足であった。  また、スプルーアンス級は2000年頃、オリバー・ハザード・ペリー級も2010年頃の退役が見込まれていたことから、代替艦の建造が必要になっていた。  このことから、SC-21計画中止後の再編成において、ミサイル巡洋艦『CG(X)』、ミサイル駆逐艦『DD(X)』との組み合わせのもと、MOOTW任務に適合する新型水上艦として、ストリート・ファイター・コンセプトをより具体化して計画されたのが、沿海域戦闘艦LCSである。

 本級は、LCS計画に対してジェネラル・ダイナミクス(GD)社が提出した設計にもとづいており、特徴的な三胴船(トリマラン)型を採用している。 これは、GD社と米海軍研究所(ONR)の研究や、イギリスの国防評価研究庁(DERA)の実験船「トライトン」の運用実績を踏まえた決定であった。 オースタル社がフレッド・オルソン社向けに建造した高速フェリーを参考に、防水区画数の増加や溶接技術の管理など軍艦構造として設計されている。  主機関はCODAG方式を採用しており、巡航機としてV型20気筒のMTU 20V8000 M90ディーゼルエンジン、加速機としてゼネラル・エレクトリック LM2500ガスタービンエンジンをそれぞれ2基ずつ搭載する。  それぞれのエンジンにバルチラ社製のウォータージェット推進器を1基ずつ備えることから、4軸推進艦となっている。 なお、三胴船型の採用によって、排水量のわりに船幅を広げることができたため、甲板面積の拡大に益した一方で、旋回性能の低下が懸念されたことから、これを補うために船首には隠顕式のアジマススラスター1基を搭載している。

 LCSのコンセプトに基づき、本級では自衛用の最低限の装備を基本として、これに加えて、任務に対応するための各種装備を柔軟に搭載することを計画している。これらの装備は、艦のC4ISRシステムを中核として連接され、システム艦として構築される。  固定装備として最重要の装備といえるのがC4ISRシステムである。 戦術情報処理装置としては新開発のICMS(Integrated Combat Management System)が搭載された。 艦砲としては、船首甲板にユナイテッド・ディフェンス社のMk.110 57ミリ単装速射砲を装備する。 砲射撃指揮装置(GFCS)としては、電子光学式のシースター社製サファイアIIIを用いている。  また近接防空ミサイル・システムとして、後部上部構造物上にRIM-116 RAMの11連装発射機であるSeaRAMを搭載する。

 沿海域戦闘艦のコンセプトにもとづき、本級は装備のモジュール化を進めている。 ミッション・パッケージはフリーダム級と共用化されており、これを収容するスペースとして、第2甲板の後半部がミッション・ベイとされており、面積は1,410 m2に及ぶ。  この広大なスペースは車両甲板としても活用でき、右舷側のサイドランプを用いてRO-RO機能を発揮することもできる。 また艦尾側にも門扉があり、複合型高速艇を迅速に発進・回収可能な、オフボード・ランチ・アンド・リカバリー・システムが設置されているが、これは、対機雷戦用の無人艇にも対応している。  その上部の船尾甲板には680m2のヘリコプター甲板が設定されており、上部構造物後端部は床面積330 m2のハンガーとされている。 搭載機はミッション・パッケージに応じて決定されるが、MH-60R/Sヘリコプターのみであれば2機、混載であればMH-60R/Sヘリコプター 1機とMQ-8無人航空機3機を搭載できる。

 対機雷戦(MCM)としては30フィートまでの浅深度の機雷に対してはMH-60S搭載のALMDS機雷探知機およびAMNS機雷処分具、30フィート以深の機雷に対してはROVを用いた遠隔機雷捜索システム(RMS)を用いる構成とされている。  また対水上戦では、艦固有の57ミリ単装速射砲に加えて、Mk.46 30ミリ単装機銃2基と艦対艦ミサイル(SSM)、MH-60Rから構成される。  対潜戦(ASW)はタレス社の2087型曳航ソナーをセンサーとして、発見した敵に対してMH-60Rを指向する方式とされている。

[同型艦]
LCS-2 USS Independence
LCS-4 USS Coronado
LCS-6 USS Jackson
LCS-8 USS Montgomery
LCS-10 USS Gabrielle Giffords
LCS-12 USS Omaha
LCS-14 USS Manchester
LCS-16 USS Tulsa
LCS-18 USS Charleston
LCS-20 USS Cincinnati
LCS-22 USS Kansas City
LCS-24 USS Oakland
LCS-26 USS Mobile
LCS-28 USS Savannah
LCS-30 USS Canberra
LCS-32 USS Santa Barbara
LCS-34 USS Augusta
LCS-36 USS Kingsville
LCS-38 USS Pierre

艦 歴
発注
起工 2017年4月10日
進水 2018年5月22日
就役 2019年10月5日
退役 -
母港 サンディエゴ
仕様・諸元
排水量 基準排水量:2,307 t
満載排水量:3,104 t
全長 127.4 m
全幅 31.7 m
喫水 4.3 m
機関 MTU 20V8000 M90ディーゼルエンジン × 2基
LM2500ガスタービンエンジン × 2基(83,406馬力)
最大速 40ノット
航続距離 3,500海里 (18kt巡航時)
乗員 中核乗員40名
兵装 ・Mk.110 57mm単装速射砲 × 1基
・eaRAM近SAM 11連装発射機 × 1基
・12.7mm機銃 × 4基

SuWパッケージ装備時
・30mm機関砲 × 2基
・30mm機関砲 × 2基
・AGM-114L SSM × 24発
艦載機 ・MH-60R/Sヘリコプター × 1機
・MQ-8B ファイアスカウト × 2機 又は MQ-8C ファイア・スカウト × 1機