Zumwalt(ズムウォルト級ミサイル駆逐艦)



 ズムウォルト級ミサイル駆逐艦は、アメリカ海軍が取得を進めている新型ミサイル駆逐艦の艦級であり、ズムウォルトはその1番艦である。  高度なステルス性などの先進的な設計と強力な対地射撃能力を備えており、当初は30隻以上の大量建造が計画されていたが、のちにコスト増などのためにナン・マッカーディー制度によってアメリカ合衆国議会に その旨を報告され24隻に、次いで7隻に、最終的には3隻にまで削減された。 2016年に就役予定。

満載排水量は14,000t以上で、これは現在アメリカ海軍が唯一保有する巡洋艦であるタイコンデロガ級ミサイル巡洋艦よりも大きい。

 従来の艦艇では、上甲板から吃水線にむけて船体幅が絞られ、乾舷は外傾していたのに対し、本級では吃水線付近が最も幅広く、乾舷は船体内向きに内傾しているタンブルホーム船型を採用した。  これは木造帆船時代に船体上部の重量軽減のために考案された船型であり、19世紀にも鋼鉄水上戦闘艦の登場時にも一部で採用された実績があったものの、第二次世界大戦期以降姿を消していた ものであったが、ステルス性向上の必要から復活することになった。 また、船首形状も、従来は波を乗り越える形状であったのに対し、本級は波浪を貫通する形状となっており、水面上より水面下の方が前方に突き出ている。  広い船尾トランサムも1枚の単純平面で構成され、側面同様に内傾している。 これらをあわせて、波浪貫通タンブルホーム船型と称されている。

 アーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦やフランス海軍のラファイエット級フリゲートのようなステルス性が重視されている艦は、前から見るとひし形のような形状をしているが、この場合水平方向からくるレーダー波は上部にあたると 空に向かって、下部にあたると海に向かって反射され、直接もとの方向へ戻ってしまうことはない。 しかし海に向かって反射された電波は海面で乱反射し、ある程度もとの方向へ戻ってしまう。 DD(X)で採用したタンブルホーム 船型は、水平方向からくる電波はほぼすべて空に向かって反射されるため、旧来のステルス性設計を凌駕する。 艦船や航空機に搭載されているレーダー機器から発射される電波波長領域では、現在運用されている アーレイ・バーク級に比べ、レーダー反射断面積(RCS)が50分の1程度になるといわれている。

 船体中央にデッキハウスと呼ばれる大きな上部構造物が設けられており、単純な平面で構成された壁面はいずれも内傾しているため、上部構造物は多角錐型になっている。 煙突はこの上部構造物に収められていて、 天井部に開口部があるだけである。 炭素繊維などの複合材料で作られた壁面には多数の開口部が設けられて、同一平面を成した平面アンテナや電子光学機器の観測窓、信号灯が埋め込まれており、 統合複合材料デッキハウス・開口と呼ばれている。 他の艦では当たり前のはしごや手すり類、燃料補給ステーションなどの突起物は外面から見える位置には露出しない。 艦橋の窓は、上部構造物前部のやや低い位置にあり、 船室の窓は基本的に設けられない。 なお船体は内側と外側の二重の側壁を備えており、二重船底と合わせて、後部の一部を除く船体は二重船殻を形成している。

 本級は、アメリカ海軍の水上戦闘艦としては初めて統合電気推進(IPS)方式を採用している。 これは、電気推進に用いるための電力と、艦船内の他の用途(兵器や電子機器、その他船内サービス用)の電力の電源を共用化する 技術であり、高度な電力制御技術と高性能の電動機が必要とされるものの、電力配分・機関運転の適正化や維持コスト低減、水中騒音の抑制など多くの利点がある。 本級の場合、電源はいずれもガスタービン発電機とされ、 主発電機としては出力35 メガワット (47,000 hp)のロールス・ロイス マリン トレントMT30が2基、補助発電機としては出力5 メガワット (6,700 hp)のゼネラル・エレクトリック LM500が2基、搭載されている。  現状では、所要の電力量は主発電機1基のみで充足可能であり、将来的には、大電力が必要なレールガンの搭載にも対応可能とされている。

 ズムウォルト級では従来までのようなマストは廃止され、ほとんどのアンテナも、上記のIDHA式上部構造物の傾斜壁面に固定式で取り付けられている。 唯一例外の通信・電子戦用の回転式小型アンテナも上部構造物の上面前部に 傾斜角を揃えた選択電波透過性の角型レドームに収められている。

 ミサイルは、二重船殻の間隙部に装備するMk.57 VLSに搭載される。 これらは外殻と内殻の間に装備することで、被弾によって自艦のミサイルが誘爆した場合でも、その被害を局限化するように考慮されている。  2011年現在、内殻と外殻の間には4セルを1単位とするPVLSを前甲板左右舷に各6基、後部のヘリコプター甲板左右舷に各4基の合計20基、80セルを搭載する。 ESSMは細身であるため1セルに4発まで装填できるため、 セル数以上の搭載数となる。 なお、計画当初は艦尾などの船体内に3連装短魚雷発射管を搭載する計画もあったが、2013年現在では、魚雷防御システムの後日装備余地が確保されているのみとなっている。

 主砲としては、単装の155mm先進砲システム(AGS)が2基搭載される。 SC-21計画時任務要求以来、本級では海上火力支援(NSFS)任務への対応が要求されてきたが、本砲はその目玉となる装備といえる。  非誘導の弾道型長射程砲弾使用時で最大射程41〜44km、GPS/INS誘導・ロケット補助推進を導入した長距離対地攻撃砲弾(LRLAP)使用時で最大射程137km以上(平均誤差半径?20?50m)を発揮できるとされており、 搭載弾数は砲1基あたり304発である。 また上記の通り、将来的には電磁レールガン(EMRG)への換装も視野にいれているとされている。 

 後部にヘリコプター格納庫と広い甲板を備えている。 有人ヘリコプターであるMH-60R シーホーク2機、またはMH-60R シーホーク1機と無人航空機のMQ-8 ファイアスカウト3機を格納庫内に収容可能である。  ヘリコプター甲板は広く、より大型なヘリコプターでも発着は可能であると示唆された。

 7m級の高速型複合艇(RHIB)が2艇、船尾のヘリコプター発着甲板下に格納されており、艦尾の扉から発進・回収が行なえるようになっている。 後続艦には11m級RHIBが搭載される予定である。

[同型艦]
・DDG-1000 Zumwalt
・DDG-1001 Michael Monsoor
・DDG-1002 Lyndon B.Johnson
艦 歴(Zumwalt)
起工 2011年11月17日
進水 2013年10月28日
就役 2016年3月(予定)
退役
建造所 ジェネラル・ダイナミクス社バス鉄工所
仕様・諸元(Zumwalt)
排水量 排水量:14,564 t
全長 182.9 m
全幅 24.6 m
喫水 8.4 m
機関 ロールス・ロイス マリン トレント ガスタービン2基, 2軸推進
(78 MW)
最大速 30ノット以上
航続距離 不明
乗員 140 名
兵装 ・62口径155mm単装砲 × 2門
・30mm機関砲 × 2門
・Mk 57 VLS(20セル) × 4基