クイーン・エリザベス



 HMSクイーン・エリザベスはイギリス海軍のクイーン・エリザベス級航空母艦の1番艦である 。 クイーン・エリザベス級はSTOVL方式の空母ながらも、満載排水量は6万トンを超え、イギリス海軍史上最大の軍艦である。

 1980年代より、イギリス海軍ではCTOL機運用も考慮に入れた次世代空母の模索を進めており、1998年の戦略国防概観によって正式に計画がスタートした。  1999年1月25日、ボーイング、ブリティッシュ・エアロスペース、ロッキード・マーティン、マルコーニ・エレクトロニック・システムズ、レイセオン、トムソン−CSFの6社が計画の事前調査に招かれ、このうち実際に応札したのはBAeとトムソン-CSFであり、1999年11月23日、国防省防衛調達庁と詳細調査の契約を締結した。  この時点では、現用のBAe シーハリアー艦上戦闘機の後継機が決まっていなかったことから、空母の設計も、両社いずれもCATOBARとSTOVLの双方とも対応できるように配慮しており、両論併記方式と称された。  その後、2002年9月末に艦上機としてF-35Bが選定され、以後はSTOVL案に一本化された。 

 イギリス国防省とBAEシステムズ、タレスUK社はエアクラフト・キャリア・アライアンスコンソーシアムを結成、2005年にはバブコック・マリン社とVTグループも加わった。  その後、2008年にVTグループの造船部門がBAEシステムズに売却されたことで、ACAコンソーシアムの構成企業は3社となり、またタレスUK社はイギリスに造船所を持たないことからおおむね設計面の関与にとどまり、実際の建造は主としてバブコック・マリン社とBAEシステムズ社によって行われることとされた。  2003年11月には1番艦の艦名も「クイーン・エリザベス」と決定しており、2005年後半には、最終案が作成された。

 外見的な特徴としてアイランドが航海・作戦用と航空管制用の2つに分割して設置されており、抗堪性を確保すると共に、各アイランドに煙突を配置することで機関から排出される排気の通路を短縮し、給排気系の軽量化と排煙の影響の軽減を達成している。  インヴィンシブル級と比して大幅に大型化しているが、高度な自動化により、艦固有の乗員は600人台で、15名程度の増加に留まっている。 飛行甲板下の主船体は9層の甲板から構成されており、各甲板の高さは最小3メートルと、かなりの余裕が確保されている。  船首部は大型商船に近いバルバス・バウとされた。 またインヴィンシブル級と同様、商船の建造技法が各方面に導入されているほか、構造面ではロイズ軍艦規則が広く適用されている。

 飛行甲板は長さ277メートル×幅73.0メートル、面積は約13,000平方メートルで、STOVL・ヘリコプター両用の発着スポット5ヶ所とヘリコプター専用の発着スポット1ヶ所が設定されている。  本級ではSTOVL方式が採用されたことから、滑走レーンはインヴィンシブル級と同様、首尾線と平行に設定されている。 ただし飛行甲板は左舷側に大きく張り出しており、将来的にアングルド・デッキを設定してCATOBARやSTOBAR方式に対応することも可能と見られている。  滑走レーンの先端部、飛行甲板の左舷前部には13度の傾斜をもつスキージャンプ勾配が設けられている。 F-35Bはアフターバーナーを備え、排気が高温になることから、スキージャンプから160メートルの位置にブラスト・デフレクターが設けられることになっていたが、実際には設けられなかった。  なお本級では、艦型が大きく滑走レーンが長いことを活用して、着艦の際に、垂直にではなく斜めに下降するSRVL (Shipborne rolling vertical landing) を行うこともある。

 エレベーターは前後のアイランドの直後に1基ずつ舷側式に設置されており、それぞれ、F-35Bを同時に2機昇降できる。 なお本級は、イギリス海軍として初めて、船体中心線上の機体移送用エレベーターを持たず、かつ実際に完成した空母で右舷側にサイド・エレベーターを設置した初の艦でもある。  格納庫は前方アイランドの直下から後方に、長さ163メートル×幅29メートルが確保された。 第2・3甲板の2甲板分の高さを確保しており、大部分ではアメリカ海軍の超大型空母よりもやや低い7.1メートル高だが、一部では高さ9メートルと、CH-53Eのような大型ヘリコプターも収容可能となっている。  標準的な合計搭載機数は約40機、20機を格納庫に収容するとされている。 最大で24機を15分で発艦させ、24分で着艦させることができるとされており、ソーティ数としては、24時間にのべ110機、5日間にのべ420機と予測されている。

 同型艦:プリンス・オブ・ウェールズ
艦 歴
発注 2008年5月20日
起工 2009年7月7日
進水 2014年7月17日
就役 2017年12月7日
退役
母港    
仕様・諸元
排水量 基準排水量:45,000 t
満載排水量:67,669 t
全長 284 m
全幅 73 m
喫水 9.9 m
機関 ガスタービン発電機+電動機(108,000 ps)
最大速 26 ノット
航続距離    
乗員 乗員:約1,600名(内航空要員679名)
兵装 ・ファランクスCIWS × 3基
・30mm単装機銃 × 4基
艦載機 F-35B、ヘリコプター
(合計して平時約40機、戦時には最大48機)