X−35(ロッキード・マーティン社)



 X-35はアメリカの航空機メーカー、ロッキード・マーティンが中心となって開発中の単発単座のステルス性を備えたマルチロールファイターである。 概念実証機のX-35は2000年に、量産機のF-35は2006年に初飛行し、2008年に実戦配備予定である。開発計画時の名称である統合攻撃戦闘機(Joint Strike Fighter)の略称JSFで 呼ばれる事も多い。ほぼ同一の機体構造を用いながら、基本形の通常離着陸(CTOL)機、艦載機(CV)、短距離離陸・垂直着陸(STOVL)機という3つの派生型を製造する野心的な プロジェクトである。アメリカ空軍・海軍・海兵隊、イギリス空軍・海軍が採用を決定しており、あわせて数千機が製造される見込みである。

 冷戦崩壊以降、アメリカ軍においてもその予算の削減圧力は強められ、その一方ではハイテク化、高性能化の進展によって戦闘機開発のコストは上昇する一方であった。 各種の戦術機を運用していた空軍・海軍・海兵隊では、それらの航空機の更新時期が近づきつつあり、空軍ではF-16やA-10の後継となりF-22を補完する戦闘機、海軍では キャンセルされたNATFやA-12に代わって開戦第一撃を行える航続力と低被探知性を持った戦闘攻撃機、海兵隊では老朽化しつつあるハリアーの後継となるSTOVL機を求めており、 国防省では対応を迫られていた。 そこで、これらの開発を一本化することで資金の集中と量産効果によるコスト削減を目指し、のちにアメリカ海兵隊と同じくハリアーの後継を求めていた イギリスの海空軍も加わった"統合戦闘攻撃機計画"が立ち上げられた。また、JSFには主にNATO諸国に輸出したF-16などの戦闘機の後継や、 友好国向けの軍事援助用としての役割も織り込まれ、参加各国の開発費の出資の割合に応じて影響力を与えるという方法で国際共同開発として友好国に参加を呼びかけることで 更なる負担軽減を図ることとされた。

X-35は、各国の陸軍・海軍・空軍から出された要求全てを単一のフレームからの派生のみで満たす、という条件のもとで機体が開発された。
・性能に比して低コスト
・空母艦載能力・垂直離着陸能力を持たせることが可能なこと
・超音速能力
・ステルス性
・大きな兵器搭載能力
・長い航続力

 ロッキード・マーティン、ボーイング、マクドネル・ダグラス(後にボーイングと合併)の3社が参加の意思を示したが、このうちロッキードとボーイングが概念実証機の 開発を許可され、それぞれが製作することとされた。この際にそれぞれの機体の名称はロッキード製がX-35、ボーイング製がX-32となった。概念実証機は2機で、 空軍向けのCTOL型、海兵隊向けのSTOVL型、海軍向けのCV型の3タイプについて飛行実証を行うこととされた。そしてX-32とX-35の各試験の結果を受け、 2001年10月26日にX-35がSDD(System Development and Demonstration; システム開発実証)段階に進むことが決定し、概念実証機の名称のX-35から、F-35という制式名称が 与えられることとなった。

 搭載エンジンは、F-22のエンジン、プラット・アンド・ホイットニー社のF119から派生した F135が予定されており、そのバックアップにGE・R&R共同開発の F136も 代替エンジンとして検討されている。ただし、F136は一度予算面からアメリカ政府によって開発中止を検討され、R&R社のあるイギリスはこの検討に反発した。 イギリスの強い反発は、アメリカを動かし結局F136の開発は継続された。 F135は出力増大によるリフトファンへの高温の空気の混入で、F136はオイル漏れによるエンジンストール で開発が遅れている。

 X-35は、ちょうどF-22を小型単発にしたような外形を持っている。ゆるい後退角を持ったテーパー翼のすぐ後方同じ高さに、主翼と似た平面形の全遊動式の水平尾翼を 持ち、2枚の垂直尾翼はステルス性向上のために外側に傾けられている。主翼付け根前縁から機首先端まで続くチャインは機体の上面と下面を明確に分けており、エアインテークは チャインの下、コックピット後方の左右にある。このエアインテークには従来のジェット機にあったような境界層分離板が無く、胴体側面の出っ張りによって境界層を押しやる 仕組みになっており、ダイバーターレス・スーパーインレットと呼ばれている。

 胴体下部には2か所の兵器倉を持ち、それぞれに1000〜2000ポンドの各種爆弾1基(タイプによって搭載できる爆弾の大きさに違いがある)とAMRAAM1基を収納できる。 ステルス性が重視されない任務では、主翼のパイロンに各種の兵器を吊り下げることができる。 各軍の要求すべてを実現しようとしたため、単発戦闘機としてはかつてない大きさの機体であり、エンジン推力も双発のユーロファイターやラファールの合計推力よりも 大きなものである。

[F-35A]
 F-35Aは、アメリカ空軍、イギリス空軍での使用が考慮されたCTOLタイプ(CTOL: Conventional Take Off and Landing; 通常離着陸)。F-16の後継機とされ、F-22を補佐する 戦闘機となる。F-35Aはほかの2つのタイプと違い固定武装として機関砲を装備することが要求されている。一部ではF-22の導入機数を増加する為に配備機数の削減やA型としての 開発を中止し、同じ様な機体構成のC型に統一すると言う計画も持ち上がっている。

[F-35B]
 F-35Bは、アメリカ海兵隊、イギリス空海軍での使用が考慮されたSTOVLタイプ(STOVL: Short Take Off and Vertical Landing; 短距離離陸・垂直着陸)。 ハリアーの後継機とされるため、垂直離着陸能力をもつ。この垂直離着陸能力にはYak-141の技術が投じられており、エンジンのノズルは折れ曲がって下方を向けることができ、 エンジンから伸びるシャフトはクラッチを介して前方のリフトファンを駆動する。最近になり、アメリカ空軍がA-10の後継機として、A型ではなくこのB型の採用を検討している。

[F-35C]
 F-35Cは、アメリカ海軍での使用が考慮されたCVタイプ(CV: Carrier (based) Variant; 艦載型)。艦載機として使用されるため、低速時の安定性が考慮されており、 他の2つのタイプと異なって主翼と垂直尾翼が大きい。また空母へ着艦するために降着装置が強化されているほか、スペースをとらないよう、艦上では主翼が折りたためるように なっているが、翼の構造は複雑になり重量がかさむ事になる。海軍独自に開戦第一撃を担える機体を求めるという要求から、シリーズ中もっとも高いステルス性と、より大型の F-22Aを超える燃料搭載量を有する。
仕様・諸元(F-35A)
全長 15.41 m
全幅 10.97 m
全高 4.60 m
空虚重量 12,426 kg
発動機 P&W製 F119-PW-611C ターボファンエンジン × 1
最高速度 M 1.7
戦闘行動半径 1,200 km
武装 ・GAU-12/U 25mm機関砲 × 1
・兵装搭載量 7,700 kg
仕様・諸元(F-35B)
全長 15.41 m
全幅 10.97 m
全高 4.60 m
空虚重量 13,888 kg
発動機 P&W製 F119-PW-611S ターボファンエンジン × 1
最高速度 M 1.6
戦闘行動半径 1,000 km
武装 ・固定武装なし
・兵装搭載量 5,900 kg
仕様・諸元(F-35C)
全長 15.50 m
全幅 13.12 m(折りたたみ時:9.10m)
全高 4.60 m
空虚重量 13,924 kg
発動機 P&W製 F119-PW-611SC ターボファンエンジン × 1
最高速度 M 1.7
戦闘行動半径 1,200 km
武装 ・固定武装なし
・兵装搭載量 7,700 kg