F−15(マクダネル・ダグラス社)



 F-15(愛称:イーグル eagle)は、マクドネル・ダグラス社(現ボーイング社)が開発したアメリカ合衆国空軍の主力戦闘機。初飛行は1972年。現在はF-22ラプターなどの 新型機も登場しているが、未だにF-15が撃墜されたという公式記録は無いため、「最強の戦闘機」の一つである。F-22に比べ、F-15の生産コストの低さは魅力的で、今後も 各国で長く使われると想定されている。

 1960年代、アメリカ合衆国が開発していたマッハ3での飛行が可能な爆撃機 XB-70を迎撃するためソ連はMiG-25を開発した。当時のアメリカではMiG-25は運動性能が高いと 考えられていた(しかし1976年に函館で起きたベレンコ中尉亡命事件により、実際には爆撃機や偵察機の迎撃用で運動性はあまり高くないことが明らかになる。なお、実際には XB-70は試作機までに留まっている)。 また、当時のアメリカ空軍が開発した機体は、ミサイル万能主義により、F-105やF-111のような戦闘爆撃機や、F-106に代表されるようなミサイルキャリアーと呼ばれる空対空 ミサイルを遠距離から発射するための戦闘機が中心であり、対戦闘機の格闘戦に優れた戦闘機が存在しなかった。F-100もだんだん戦闘爆撃機として方向転換していき、 またF-101やF-104など対戦闘機戦闘を目的とした戦闘機も開発されたが、結局本来の目的では使われなかった。そのため、格闘戦が多く行われたベトナム戦争において苦戦を 経験していた。幸いにも、海軍から導入したF-4戦闘機が格闘戦を行えるほど機動性に優れていたため、ベトナム戦争は凌ぐことができたが、そのF-4にしてから当初は機関砲を 搭載していないミサイルキャリアーであり、同じ海軍のF-8と比較すると格闘戦能力では一歩譲る。さらにそのF-8もより運動性に優れたF-11を蹴っての採用であった。 空海軍双方とも、戦闘機の格闘戦能力を軽視していた訳である。空軍首脳の危機感は大きなものがあった。 以上から、次期主力戦闘機には格闘戦ができる戦闘機及び空戦に特化し対地・対艦攻撃能力には1ドルたりとも予算は掛けないというコンセプトを求めF-15を開発し、なおかつ 世界最強の空戦戦闘機としてアメリカ合衆国の国鳥であり、国章にもなっているアメリカの象徴である鷲の名前が与えられた。1972年以来1200機以上生産。

 主翼は高翼配置であり、単純フラップと補助翼がついた簡単な構造で、前縁フラップもない。双垂直尾翼であり、水平尾翼は全浮動する。大型のエアブレーキが胴体背面に ついており、そのため緊急停止用のパラシュートを装備していない。機体は軽量にするためにチタン合金が多用されており、機体の3分の1を占めている。 大型の涙滴型キャノピーは機体の最上面に張り出して位置しているため、パイロットに360度の視界を与えており、極めて視界は良好である。反面そのキャノピーが高速に 耐えきれず、最高速度はマッハ2.3に制限されている。就役当初はマッハ2.5までなら2分間だけ出す事を許されていたが、これは本機の要求性能としてマッハ2.5が提示されて いたため、仕様を要求に合わせるための苦肉の策であり、たった2分間だけ出し得る最高速度に実用的な意味は無い。本機の後に登場したF-16(最高速度マッハ2)やF/A-18 (最高速度マッハ1.8)の例を見ればわかる通り、戦闘機に無意味な最高速度を求める事は無くなったため、現在ではマッハ2.3がF-15の最高速度とされる。 全体的に見れば、驚くほど平凡な機体である。外見上もMiG-25やA-5といった過去の機体をほぼ踏襲している。可変後退翼のF-111やF-14、ブレンデッドウイングボディと FBWのF-16、カナードのサーブ 37 ビゲンなど、同時代の多くの戦闘機が新機軸を採用しているのに対し、F-15は新技術は避けて極めて堅実な設計に努めているのがわかる。 特にデジタルFBWについては、採用しようと思えば採用できたと思われるのに、あえてコンピューターによる電子的制御を、機械的リンクの補助に留めている (機械系統が破損しても、電子制御だけで飛行できるようになっており、デジタルFBWの一歩手前まで来ているのである)。 元来、マクドネル・ダグラスの前身であるマクドネル社は、初の艦上ジェット戦闘機 FH-1 ファントムから空・海・海兵の三軍の主力戦闘機であった F-4 ファントムUまで、 その革新的設計で同時代の戦闘機メーカーの群を抜く存在であった。これはマクドネル社が小企業であるがゆえに、冒険が可能であったからと言われている。だがダグラスと 合併して大企業となったマクドネル・ダグラスは、一転して平凡な設計に転じたのである。結果としてF-15は成功作となったが、F-15の後継機開発計画であるATF計画においては、 書類審査で落選する結果となった。革新的設計が売り物の会社がその特徴を放棄した時、もはやその会社の価値は低下し、結果としてマクドネル・ダグラス社はボーイングに 吸収合併されるのである。

 F-15はターボファンエンジンを2基装備していて、胴体の左右にある二次元インテイクから空気を吸入している。このターボファンエンジンは非常に強力で、何も装備しない 状態であれば推力重量比が1を超える。つまり、主翼の揚力を利用せずに、エンジン推力だけで垂直に上昇できる(その推力のおかげで、片翼を完全に失っても飛行して帰還した 例がある)。ただし、この副作用としてF-15は飛行時(特に離陸時)に雷が鳴り続けるような凄まじい轟音を全空に轟かせる。そのため、空軍基地が市街地に隣接している地域では 、F-15が飛行しているときは窓を開けての通常生活をするのは実質不可能であるため、民間家屋に空調や二重窓の無償提供が為されることが常である。

 F-15は高い機動性と高性能のレーダー(APG-70,63シリーズ)を持ち合わせており、空戦能力は世界最高水準にある。2005年現在、訓練中に誤って実弾を発射した事による撃墜 を除いては、実戦における空中戦での被撃墜はゼロである。いくつかの交戦相手国がF-15撃墜を主張しているが、その状況の信憑性に欠ける事から、米・イスラエル共に認めて いない。一方、ソ連は交戦当事者ではなくオブザーバーを送って自国兵器の運用状況を観察していたが、MiG-23など自国製の戦闘機が数機のF-15を撃墜したことを記録しており、 現代でもロシア他の国々ではこれが「事実」として扱われている。一般的に、当事者国のイスラエルやアラブ側の報告と比べ第三者国のソ連による報告が信憑性に欠けるという ことはないが、その報告の正確性についてはアメリカとの兼ね合いもあり冷戦後も厳密に検証されておらず、現在でもF-15の撃墜されたことが世界中で常識となっているわけでは ない。しかし、逆にF-15の無敵神話も世界の共通認識というわけではなく、それが定説として通っているのはほぼ西側に限られているということは事実のようである。 また、約30年前に設計された機体にもかかわらず、将来を見越して余裕を持った設計とされたため、各種の近代化改修(新型ミサイル対応、レーダー、エンジンの換装、 AWACSとの連携能力(LINK16)等)によって今なお第一線での任務をこなす能力を維持しており、F-15よりも後に運用を開始したロシアのSu-27、国際共同開発のユーロファイター タイフーン、フランスのラファール等の新鋭機と比べても全く引けを取らずに各国空軍で主力の地位を譲ることなく君臨している。 アメリカでは後継のステルス戦闘機F-22ラプターへの機種転換が始まっているが、コストの問題などから2030年代まで使用される見込みである。
仕様・諸元
全長 19.43 m
全幅 13.05 m
全高 5.63 m
空虚重量 12,973 kg
発動機 P&W製 F100-PW-220 ターボファンエンジン × 2
最高速度 M 2.3
航続距離 3,450 km(フェリー), 5,500 km(増槽)
武装 ・M61 バルカン砲 ×1(弾数940発)
・翼下及び胴体下取り付け部にAIM-7スパロー × 4 + AIM-9サイドワインダー × 4
・外部兵装最大10,705 kgを選択搭載可能