AH−1(ベル・エアクラフト社)



 AH-1 コブラ(Cobra)はベル・ヘリコプター・テキストロン社がUH-1を元に開発した、世界初の攻撃ヘリコプターである。アメリカ陸軍では AH-64 アパッチに交代しているが、改良型がアメリカ海兵隊とアメリカ海軍で運用されている他、イスラエル空軍、イラン陸軍を初めとする諸外国でも現役で使用されている。

 1960年代、アメリカ陸軍はベトナム戦争において、輸送用ヘリであるUH-1を大量に投入した。しかし、兵士や荷を下ろす際のホバリング中を狙われ、損失も大変多かった。 対抗策として、ヘリに機銃やロケット弾を装備するといった事もなされたが、元が輸送用ヘリコプターである為、決して良策とは言えなかった。 ベトナム情勢が悪化する中で、ベル社はUH-1をベースに攻撃ヘリコプター、「モデル209」の自主開発を行っていた。この機体は、エンジンは同じく単発で、ローターも二枚羽で あるが、座席はタンデム(縦型)に並べた複座となっていて、正面から見ると極端に縦に細長い事がわかる。胴体側面に安定翼を配し、飛行安定性が向上した他、翼の下には ロケット砲ポッドとミサイルを設置することができる。また機首には可動式ガトリング砲を標準装備することで、多方面への攻撃性を増している。

 時を同じくした1966年、アメリカ陸軍は発達型空中火力支援システム(AAFSS)計画の選定機種として、ロッキード社の「AH-56Aシャイアン」を採用する事を決定していた。 しかし、戦争投入には間に合わないため、AH-56Aの実用化までのつなぎとして、ベルの再設計機体を開発する事を決定した。この機体の開発は短時間で行なわれ、1965年9月7日に 初号機が初飛行した。そして1967年の9月には、「AH-1G ヒューイコブラ」と命名され、実戦に投入されている。 一方、本命であったAAFSS計画は、構想の大幅な見直しなどからキャンセルされてしまった為に、AH-1に主力攻撃ヘリの座を譲る事となった。

 最大の特徴は、幅99cmという非常にスリムな胴体と、搭乗員をタンデムに配置した事である。前席が射手兼副操縦席、1段高い後席が操縦席となっている。 機首下面には、毎分4000発もの発射速度を誇る20mmM197三砲身ガトリング砲が配置されており、戦車の装甲を切り裂く威力を持っている。また、グレネードランチャーの 発射機に換装が可能である。胴体中央部のスタブ・パイロンには4ヶ所のパイロンがあり、ロケットランチャーや対戦車ミサイルなど、最大700kgまで吊下可能と言われている。

 ベトナム戦争終結後には、TOW対戦車ミサイル運用能力付与がなされた。TOW運用能力を付与された機体は「AH-1Q」と呼ばれ、機首部に光学望遠鏡方式の照準装置を装備して いるのが特徴である。 米陸軍では、重量増加によるエンジンの出力不足が問題視されたため、1977年から、エンジンやトランスミッションなど機体各部の強化などを施し、キャノピーを 角ばった平面型に変更した「AH-1S」の生産と部隊配備が開始され、1980年代まで生産と攻撃ヘリコプター部隊への配備が続いた。生産の途中からは、新たに2段階の能力向上型が 生産されたため、米陸軍では1987年に、最初の生産型を「AH-1P」、能力向上型を「AH-1E」、発達型を「AH-1F」と改称した。日本の陸上自衛隊に採用されているのは「AH-1S コブラ」で、1986年3月から実戦配備されているアメリカ海兵隊向けの「AH-1W スーパーコブラ」などの派生型もある。最新型は「AH-1Z バイパー」で、米海兵隊は2004年から 2013年までに180機を「AH-1W スーパーコブラ」から「AH-1Z バイパー」に更新することを計画している。 なお、キャノピーが角ばった平面型となっているのは、陸軍向け仕様の対戦車攻撃ヘリ型のAH-1S系統だけである。

 日本の陸上自衛隊では1979年と1980年に研究用として1機ずつ導入して検討、1982年度から22機調達したのを皮切りに導入を開始した。7機目から富士重工業(エンジンは 川崎重工業)によってライセンス生産され、2000年12月14日までに89機が生産された。なお、陸上自衛隊で使用されている「AH-1S」は、最初に輸入された2機が能力向上型の 「AH-1E」に、富士重工業でライセンス生産された機体は発達型の「AH-1F」に相当するものである。 2001年8月27日に、防衛庁は陸上自衛隊の次期戦闘ヘリとして、三菱重工業が提案した派生型「AH-1Z」を下し、富士重工が提案したボーイングのAH-64Dアパッチ・ロングボウを 選定した。
仕様・諸元(AH-1S)
全長 17.44 m
胴体幅 3.28 m
メインローター直径 13.41m
全高 4.19 m
空虚重量 3,076 kg
発動機 ライカミングT53-K-703(1,485shp) × 1
最高速度 315 km/h
航続距離 456 km
武装 ・20mmM197三連装ガトリング砲×1(固定武装)
・TOW対戦車ミサイル×最大8発
・JM261ハイドラ70ロケット弾ポッド(ロケット弾19発入り)× 2