Yak−38(ヤコブレフ設計局)



 Yak-38(Як-38 ヤーク・トリーッツァチ・ヴォースィェミ(NATOコードネーム:フォージャー(Forger)「まがい物」の意))は、ソ連のヤコヴレフ設計局で開発された垂直離着陸機(VTOL機) である。攻撃機として運用された。

 Yak-38は、試験機のYak-36を基に実用的な機体として作られたため、当初はYak-36M(「Yak-36の改良型」の意味)と呼称された。 ハリアーと似たような能力を持つが、ハリアーが陸上での運用を考え開発され、後に艦載機として発展したのに対して、Yak-38は当初から艦載機として開発された。 主な派生型としては、複座練習機型のYak-38U、単座改良型のYak-38Mがあった。

 2基のリフトエンジンを持ち、垂直離着陸を行う完全VTOL機であり、初期はハリアーのようにSTOVL機能は持ち合わせていない(改良型のYak-38MではSTOLが可能)。 VTOL時における最大離陸重量はハリアーより上回るが、STOVL機としての能力を持つハリアーと比べ垂直離陸能力以外の離陸能力は持ち合わせていないため、 運用レベルでは最大離陸重量はハリアーよりも劣る。また、VTOL時の安定性が悪く、生産された200機のうち少なくとも20機がVTOL時の事故により消失しており、 皮肉にもこのような事態が緊急脱出時の射出座席の性能を上げることとなった。Yak-38は、高性能のD-36射出座席が搭載された最初の機体のひとつとなった。

 垂直離着陸時には、前部荷重を2基のリフトエンジンが、後部荷重を推力偏向した主エンジンが支え、前部偏向ノズル・後部偏向ノズルともに主エンジンの パワーによるハリアーとは機構が異なる。また垂直離着陸専用のエンジンを主エンジンと別に装備しているため、水平飛行時にはリフトエンジンは完全な デッドウェイトになり、ハリアーより燃料や兵装の量で損をしている。このため戦闘機とのドッグファイトは難しく、兵器搭載量も十分なものとはいえなかった。 武装は必要最低限のものが用意され、R-60赤外線誘導短射程空対空ミサイルとKh-23電波コマンド誘導空対地ミサイル、それに機関砲コンテナーや無誘導爆弾を 運用できた。

 兵器搭載量が少なくや航続時間が短かったことは、攻撃機であるYak-38にとっては大きな欠陥であった。実際、ソ連のアフガニスタン侵攻では対地攻撃任務に 入されたものの、肝心の対地攻撃能力がシステム・兵装両面で不足しておりほとんど役に立たなかった。結局、この任務のために特別の迷彩を施した若干機数が 試験的に投入されただけでYak-38の実戦運用は終了した。

 鉄のカーテンで区切られた冷戦時、西側に対してソ連側もVTOL機を生産、運用出来ることを見せ付ける政治的手段として運用され続けた。 航空巡洋艦キエフ甲板に整列しているこの機体が初めて発見された時、西側関係者はハリアーより高性能な超音速VTOL機ではないかと色めき立ち、 その後実態が判明するまで「まがい物」のこけ脅し効果は遺憾なく発揮された。また、西側では長らくYak-38を戦闘機であると考えていた。 また、その空中戦能力が大したものではないということが次第に明らかになってくると、今度はYak-38は対潜哨戒機を目標にした機体であると考えた。 成功作とはいえなかったYak-38であったが、その開発経験は次なるVTOL機の開発に大いに生かされた。 しかし、後継機としてはるかに高性能の超音速VTOL戦闘機Yak-141が設計・製造されたときにはソ連が崩壊し、その生産は一切行われなかった。 なお、Yak-141の推力変向ノズルなどの技術はアメリカのF-35Bに転用された。
仕様・諸元
全長 15.50 m
全幅 7.32 m
全高 4.37 m
空虚重量 7,390 kg   
発動機 ・推進用:ツマンスキー設計局製 R27V-300ターボジェット × 1
・上昇用:コリェソフ設計局製 RD-36-35-FVRターボジェット × 2
最高速度 1,150 km/h
航続距離 680 km(内部燃料のみ)
武装 ・23mm機関砲ポッド × 1
・AA-8アフィッドAAM × 2
・機体外部に1,500 kgまでの武装を搭載可能