MiG−29(ミグ設計局)



 MiG-29(МиГ-29ミーク・ドヴァーッツァヂ・ヂェーヴャチ)はソ連のミグ設計局で開発された戦闘機。 ロシアでの愛称はラーストチュカ(「燕」の意味)であるが、これは女性に対する優しい呼びかけでもある。北大西洋条約機構(NATO)は、 「天秤の中心部」や「付属物」という意味の英語の「Fulcrum」(フルクラム)というNATOコードネームを使用した。

 当時東側の主力戦闘機であったMiG-21やMiG-23の後継機として、また、1970年代にアメリカ合衆国が開発したF-14やF-15などの新鋭戦闘機に 対抗する新機種として設計された。 MiG-29は、エンジンの空気取り入れ口に開閉する蓋が付いているのが特徴で、このふたを閉めて異物の侵入を防ぎ、機体上部から空気を 取り入れることで、不整地や凍土からの離着陸をより安全なものとしている。 なお、同時期にスホーイ設計局で開発されたSu-27と形状が似ているのは、ともにTsAGI(中央流体力学研究所)の研究結果を取り入れたためである。 外見的に大きく異なるのはその大きさで、Su-27の方が大型である。実用面ではSu-27が比較的長距離対応の制空戦闘機であるのに対し、MiG-29は 局地戦闘機的性格が強い。或いは、MiG-29がコストパフォーマンスに優れていた点が最大の相違点かも知れない。なお、武装や燃料搭載量は 大型のSu-27の方が優れており、特に少ない燃料搭載量はMiG-29の欠点となっている。

 MiG-29は機動性には優れていると評価されていたが、敵方にのみ十分な支援を得られる環境での実戦があいつぎ、湾岸戦争では 5機(イラク空軍機)、コソボ紛争では6機(ユーゴスラヴィア空軍機)のMiG-29Bが撃墜されている。 MiG-29の真価が問われたのは、双方共に十分な支援を得られなかったエチオピアとエリトリアの国境紛争におけるSu-27との空戦である (Su-27:2機/MiG-29:4機)。1999年2月25日に行われた戦闘は、まずエリトリアのMiG-29が前線を哨戒飛行中であったエチオピアのSu-27を バドメ上空で迎撃したところから始められた。エチオピアのSu-27は当時配備間もなく、エリトリア側のパイロットたちはこれを排除せねばならない と考えていた。まず、MiG-29はR-27中距離レーダー誘導空対空ミサイル数発を敵機へ発射したが命中せず、逆にSu-27は引き返して搭載するR-27全弾を 発射して反撃した。しかしながらこれもすべて命中せず、接近戦に縺れ込むこととなった。その結果、R-73短距離赤外線誘導空対空ミサイルによって エリトリアのMiG-29が1機撃墜されたとされる。その後、エリトリアはさらに2機をSu-27により失ったとされる。 なお、1999年2月25日の空中戦の24時間後、同空域においてMiG-21による攻撃部隊を護衛中のエチオピアのSu-27S 1機が、アスマラ方面から飛行して きたエリトリアのMiG-29UB練習戦闘機1機を撃墜しているが、この際のSu-27Sパイロットは女性(Capt. Aster Tolossa)であったとされる。

 統一後のドイツ空軍は輸出型のMiG-29A(後に、NATO規格に改修したMiG-29G)を運用していたため、しばしば異機種間訓練(DACT)を行った。 MiG-29の搭載するR-73ミサイルが西側製の同クラスのミサイルより高性能であったこともあり、格闘戦ではF-16と互角以上との評価がなされた。 だが、航続距離・搭載量・電子機器・航法システム・有視界外戦闘能力の面で西側の技術に劣っており、良好な運動性と格闘戦能力にもかかわらず、 運用は限定的な物にならざるを得ないと評価されていた。 また、MiG-29N(電子機器等の改良型であるMiG-29Sの輸出型)とF/A-18Dとを運用するマレーシアでも同様の「試験」が行われているが、 空対空ミサイルとして運用されるR-77の性能の関係もあり、MiG-29Nの方が射程距離が若干長いと評価されている。 なお、マレーシアではMiG-29Nに関してロシアからの部品供給の悪さが致命的な「欠陥」として指摘されているが、同国ではF/A-18E/Fとの 比較の末Su-30MKMを導入し、MiG-29Nを改修してSu-30MKMとアビオニクスの共通化を計画するなど、ロシアとの関係を強化する方向に動いている。 MiG-29の輸出型に関してはここに記述されるように様々な「評価」が出されているが、これら輸出型の性能は本来のものより限定されており、 特にMiG-29Bは大幅なグレードダウン型である。一方、MiG-29の非グレードダウン型であるソ連国内向けの派生型やMiG-29SMT、MiG-29OVTのような 現行生産機に関しては各種データは当事者間でしか知られておらず、不明である。2005年現在、ロシアの資源系以外の主産業は エレクトロニクス部門であり、インド、中国と並んで莫大な数の技術者が毎年アメリカ合衆国など海外へ輩出されているが、 この技術力が国内部門にも生かされているとすれば、ロシア製戦闘機の電子機器関係の能力も大幅に向上しているはずである。 現に、MiG-29M以降の派生型は複数目標への同時攻撃能力やオフボアサイト攻撃能力など今後の戦闘機の標準的能力をステルス性以外は すべて持ち合わせており、搭載するミサイルのレーダー性能も飛躍的に向上しているとされるが、やはりこうした最新機材を搭載した機体は 運用国が限定され海外との共同訓練等で能力を明かすこともほとんどないため、実際の性能は未知数としかいえない。 近年インド空軍とアメリカ空軍との間で行われた共同演習はSu-30KやMiG-21バイソンが大々的に参加するなど注目に値する内容であったが、 MiG-29に関して言えばこの演習の「実戦」には使用されておらず、またもし使用されていたとしても、インド空軍で運用されているのは よく知られたMiG-29Bであるため、評価するに値しないであろう。新型機に関して明らかにされている珍しい例は上記マレーシアのMiG-29Nであるが、 これに関してもMiG-29Nは他に同機種の運用国がなく、唯一の運用当事者からの情報しかないため、客観的な評価は難しい。
仕様・諸元
全長 17.32 m
全幅 11.36 m
全高 4.73 m
空虚重量 10,900 kg
発動機 RD-33 ターボファンエンジン×2基
最高速度 M2.3
航続距離 2,100 km(増槽使用)
武装 ・30mm機関砲 × 1
・翼下及び胴体下にAA-10アラモAAM × 2 +AA-8アフィッドAAM × 4、爆弾・ロケットポッド等も搭載可能