あすか(試験艦)


出典:海上自衛隊ホームページ

 あすか(ASE-6102)は、海上自衛隊の試験艦である。 本艦は試験専用艦で、省力化やステルス化を目的とした艦載兵器実験艦となっている。 同型艦はない。 なお艦名は試験艦の命名基準である「名所・旧跡のうち、文明・文化に関する地名」という点から、日本の古代大和朝廷が栄えた地、「飛鳥」に因んで命名された。

 船体は遮浪甲板型の船型を採用している。 艦首・底には新水上艦用ソーナー(OQS-XX)を設置したことから、投錨の際の干渉を避け、また砕波発生位置をできるだけ後方にしてOQS-XXから遠ざけるように、艦首は鋭く突出している。  OQS-XXはバウ・ドームのシリンドリカル・アレイと艦底の長大なフランク・アレイからなるが、予算の関係上、フランク・アレイは片舷のみの装備とされた。

 艦橋構造物は4層からなり、その最上部にはレーダーの試験機材を搭載する構造物が設置されている。 就役時には射撃指揮装置3型(FCS-3)試作機のアクティブ・フェイズド・アレイ(AESA)アンテナを4面配したレーダー機器室が設置されていた。  試験終了後、FCS-3試作機の部品はひゅうが型護衛艦の2隻に転用されており、現在ではAESAアンテナも含めてすべて撤去され、レーダー機器室にはカバーがかけられていた。  平成26年(2014年)度以降は、マルチファンクション・レーダー(FCS-3)の性能向上策の一環として開発されてきたXバンドの多機能レーダーの試作機が搭載されて海上試験が実施される見込みであり、既に準備工事の一部は始まっているものとされている。  艦橋構造物の直前の01甲板レベルに甲板室が設置され、ここは3甲板吹抜けの空所とされて、のちに新アスロック(後の07VLA)及び新艦対空誘導弾(A-SAM)の運用試験のためのMk.41 mod.17 VLS(8セル)が設置された。  しかし2022年度末の修理の際に撤去されている。 また同様に、就役後に魚雷防御システムを構成する投射型静止式ジャマー、自走式デコイの試作品を搭載し、運用試験を実施していた。  魚雷発射管も12式魚雷の試験のため更新された。 なお試験艦という性格上、艦艇乗組経験の乏しい試験要員の乗艦機会も多いことから、通常は一方通行のラッタルとされるところを二列並行の階段を配置し、また避難経路を示す誘導灯を設置するなどの配慮がなされている。  また第2甲板に配置された固有乗員の居住区に加えて、これらの試験要員などの便乗者用として、第3甲板に約100名分の居住区が設けられているほか、乗艦者の休息や歓談に用いる歓談室や試験関係者の打ち合わせに使える多目的講堂、試験器材などを設置できる計測室が設けられている。  なお本艦は、自衛艦として初めて女性自衛官が乗艦した艦で、病室も男女別に設置されている。

 主機としては、自衛艦としては初めてガスターボエレクトリック・ガスタービン複合(COGLAG)推進方式を採用した。 これは、巡航機としてゼネラル・エレクトリック LM2500ガスタービンエンジン1基を発電機として用いたターボ・エレクトリック方式を、加速機として同じくLM2500 2基による機械駆動を用いるものであった。  ただし、COGLAGの試験終了後は発電用のLM2500は他に転用されて撤去され、現在ではガスタービンエンジン2基のみが動力となっている。 また運航要員の省力化も試みられており、操舵と主機操縦を操舵・主機遠隔操縦装置に統合したことで、従来はそれぞれの操縦員が必要だったのに対してワンマン・コントロールが可能とされたほか、ボタン式速力通信機の採用により主機の直接操縦が可能となった。

 上甲板(第1甲板)後部はヘリコプター甲板とされており、着艦拘束移送装置等は備えられていないものの、H-60系ヘリコプターの発着が可能な面積が確保されている。 またハンガーも通称「ヘリコプター格納庫」でSH-60Jを収容できるようになっているが、正式名称は「開発用品倉庫」で試験機材の収容や悪天候時の試験要員待機所など様々に用いられている。  ヘリコプター甲板直下の作業甲板(第2甲板)には曳航ソナーの巻上げ装置が搭載されているが、これは試験用という性格上、護衛艦用の実戦装備と比してかなり大掛かりなものとされていた。

「あすか」でこれまでに実施された試験は以下の通り。
・1995年 統合化航法システムの性能確認試験を実施。
・1995年〜1998年 OQQ-XXソナー、COGLAG推進方式、FCS-3の試験を実施。
・1998年 赤外線探知装置の試験を実施。
・1999年〜2000年 新戦術情報処理装置(後のOYQ-10)の試験を実施。
・2003年〜2004年 投射型静止式ジャマーと自走式デコイの試験を実施。
・2003年〜2007年 新アスロックの試験を実施、この実験のためMk 41VLSを搭載(その後撤去)。
・2007年〜2011年 新対潜用魚雷(後の12式魚雷)の試験を実施。
・2012年 新水中自走標的の試験を実施。
・2014年 あさひ型護衛艦に装備するレーダをマスト前部とFCS-3設置跡の前部に、「マルチファンクションレーダ(FCS-3)の性能向上の研究」で試作したレーダを同じくFCS-3設置跡の後部(右舷大型、左舷小型)に搭載。その後、後者の大型レーダを右舷前部に移設し、他は撤去。
・2015年 MQ-8Cデモンストレータ(モックアップ)による艦載適合性試験を実施。
・2017年 艦橋前右舷方向にコフィンランチャーを装備して12式地対艦誘導弾の艦載化試験を実施。同ミサイルは後に17式艦対艦誘導弾(SSM-2)として実用化される。
・2019年 もがみ型護衛艦に装備するVDS+TASSの試験を行うため、後部甲板の一部をかさ増し。
・2022年 新艦対空誘導弾(A-SAM、後の23式艦対空誘導弾)の実弾発射試験を実施。
・2023年 防衛装備庁が研究開発中のレールガンの世界初となる洋上射撃試験を実施。
・2023年 FCネットワーク用のアンテナを搭載、同様のアンテナは「あきづき」「てるづき」にも搭載。
・2025年、レールガンを再度搭載。レールガン本体を新たに筐体で覆った。

[同型艦]
・なし
艦 歴
起工 1993年4月21日
進水 1994年6月21日
就役 1995年3月22日
喪失
除籍
建造所 住友重機械工業 浦賀造船所
仕様・諸元
排水量 基準排水量 : 4,250 t
満載排水量 : 6,200 t
全長 151.0m
全幅 17.3 m
喫水 5.0 m
機関 COGLAG方式
LM2500ガスタービンエンジン×2基、LM2500ガスタービン発電機×1基
(43,000PS)
乗員 72名 + 試験要員100名
兵装 ・Mk.41 mod.17 VLS × 8セル
・3連装短魚雷発射管 × 1基
搭載機 ・ヘリコプター1機搭載可能