VULCAN(イギリス/アブロ社)



 アブロ バルカン (Avro Vulcan) とは、イギリスの航空機メーカーであるアブロ社で開発され、イギリス空軍で使用された爆撃機である。 ハンドレページ ヴィクター、ビッカース ヴァリアントと共に3Vボマーと呼ばれた。

 バルカンの開発は1947年に空軍から出された要求仕様B.35/46により始まった。この要求には、アブロ社以外にもハンドレーページ、ショートの各社が応募し、 後からヴィッカーズ社が保険を兼ねて別の要求仕様B.9/48が提示され開発に参加した。 アブロ社の機体は、入手したドイツの研究データを盛り込んだデルタ翼を採用していた。エンジンは主翼の根元に埋め込む形で配置された。バルカンは核兵器を 搭載し高高度を高速で侵攻、攻撃の後離脱するという戦略の下開発された為、高高度での飛行性能が重視された。 バルカンには数々の新機軸を盛り込んだため、実寸大の試作機を製造する前に、飛行特性等を確かめるためバルカンを縮小した設計の707試験機を4機製造し実験を 重ねた。原寸大の試作機は1955年に初飛行したが、試験飛行中に高高度にて主翼の異常振動が確認されたため、改良が施され外翼部の弦長を増加させ、これにより 主翼の強度はかなり向上した。この後に部隊配備が開始され、バルカンはイギリスの核抑止力の一端を担うこととなる。

 バルカンは高高度からの核攻撃任務を第一に設計され、スタンドオフミサイルであるブルースティール Mk.Iを搭載した。初期のころは核爆発の閃光から自身を 守るため全面を白色に塗装し、国籍マークも薄く描かれていた。その後ソビエトが地対空ミサイルの配備を進めると、ソビエト領空外から目標を射程に収める アメリカ製空中発射弾道ミサイル、スカイボルトの配備も計画した。しかしブルースチール Mk.Iの退役、同Mk.IIの開発中止、およびスカイボルトの取得失敗に よって、イギリスの核抑止は戦略原潜から発射されるSLBM、ポラリスが主となり、バルカンの主任務は低空侵攻による自由落下核爆弾WE177による戦術核攻撃と なった。その後は通常爆撃や洋上哨戒任務も付与され、迷彩塗装も施された。

 バルカンはその後、特に目立った改良も施されず、老朽化により退役を待つばかりとなっていたが、フォークランド紛争が勃発すると、通常爆弾を用いて ポートスタンリーを攻撃することが決定し、急遽改造を加えられたバルカンは1982年4月30日と5月1日にアセンション島から出撃し、途中ヴィクターからの 空中給油を受けつつ長駆6,300kmを飛行し爆撃に成功、無事帰還した。これがバルカンにとっての唯一の実戦任務となり、1984年3月をもって全機が退役した。
仕様・諸元
全長 30.45 m
全幅 33.83 m
全高 8.28 m
最大重量 90,720 kg
発動機 ロールスロイス社製 オリンパス301ターボジェット × 4(推力9,072kg × 4)
最高速度 1,050 km/h
航続距離 5,550 km
武装 ・胴体内に454 kg爆弾を21 発搭載(低空侵入爆撃任務時)